脚本・演出
嘉数 道彦
「かりゆし・かりゆし ~恋するシーサー~」をご覧になるお客様へ
平成25年の春に誕生した「かりゆし・かりゆし~恋するシーサー~」であるが、タイトル名の「かりゆし」という沖縄の言葉をどう訳して伝えたらよいのかという、思わぬ課題が浮かび上がった。
「めでたい」?
「HAPPY」?
…いや、やはり「かりゆし」は「かりゆし」であり、訳することのできない、言葉として、また目に見える形として表せないもの。頭で考え、理解することのできないものが、事実ある。言葉に限らず、人は誰でも、自分にしか分からない、自分の本能で感じる何かを持っているではないだろうか。自分自身の中に、知らずと宿った魂を。それは決して恥じるべきものではないし、また共感を求めるものでもない。
本作品は、沖縄の音楽、踊りを心から愛する者が集い、現代を生きる我らの思いを込め、新しい可能性を追求しつつ、創り上げた作品です。
シーサー、そして沖縄人が自らの弱さ、悲しさを笑いに変え、明るくたくましく生き続ける姿を、笑うも良し、泣くも良し、思いのままに感じていただきたい。繰り返すが「かりゆし」は「かりゆし」である。出演者、スタッフ一同、客席の皆様とともに「かりゆし」という言葉に込められた沖縄の心、同じく形では表せない沖縄の思いを、舞台をとおして追い求めていきたい。そして、我らは自らの心で、それを感じたい。
決して訳せない、いや訳してはいけない「かりゆし」という大きな四文字に堂々と立ち向かうことにこそ、この作品を演じる大きな意義があるのではないだろうか。
「組踊版 スイミー」をご覧になるお客様へ
組踊の魅力を子どもたちに伝えるため筆をとった作品が「組踊版スイミー」です。組踊の大半を占める敵討物の様式をベースに、日本各地のお魚たちが心を一つにして、沖縄の海の平和を守るため一生懸命戦うお話しです。
それと同時に、この類の新しい舞台は伝統的な世界を守ろうとする実演家たちの一種の戦いでもあるのです。入門編の新作組踊として試行錯誤しつつも、その世界へ誘う第一歩となるよう心を込めて、若手実演家たちが組踊の海中を全力で泳ぎ回ります。
どうぞ肩の力を抜いてご鑑賞ください。そして、懸命に闘う海の生き物たちにどうぞご声援ください。この日が沖縄伝統芸能の明るい明日につながる一日となりますように、筆者は舞台袖で祈るばかりです。
経歴
1979年生。那覇市出身。
宮城流能里乃会教師。
幼少の頃より初代宮城能造・宮城能里に琉球舞踊を師事。
沖縄タイムス社芸術選奨奨励賞受賞。
沖縄県立芸術大学大学院音楽芸術研究科修士課程修了。
在学中より多くの新作組踊作品の創作・脚本・演出を手がける。
同大非常勤講師を経て、2013年より国立劇場おきなわ芸術監督兼企画制作課長に就任。
これまでに手掛けた作品
「組踊版スイミー」、「かりゆし・かりゆし ~恋するシーサー」、「ぺーちんの恋人」、「十六夜朝顔」、「ロミオとジュリウットゥ」、「オキナワ! オキナワ! オキナワ!」、「宿納森の獅子」、「組踊版ももたろう」、「歌たい舞うたい干支せとら」など多数。